京都市の市バス事業においては,令和元年度をもって路線の一部を担っていた京阪バスが撤退し,既存の公共交通サービスを存続は険しさを増しています。
京都市内の上京区、中京区、下京区を除くいわゆる周辺地域では、通勤通学の時間帯であっても最寄りのバス停から主要鉄道駅までのダイヤが一時間に2本、日中は1時間に1本という地域も多く、少子高齢化や高齢者による免許書の自主返納も進む中で地域の公共交通の充実を求める声は多く聞かれます。しかし現状の公共交通は赤字路線が過半数を占め、現状を維持することすら厳しいため将来的に市バス事業の市民サービスを維持するためには根本的な見直しが必要です。
そこで,私たち京都党が着目しているのが世界的にも注目を集めているモビリティ革命,MaaS(マース)です。MaaSとは,Mobility as a Serviceの略で、ICT(情報通信技術)を活用して交通をクラウド化し、利用者の移動ニーズに合わせて交通手段の最適な組合せを提供するサービスです。近年ではサブスクリプションで音楽や映画を見放題,聞き放題というサービス形態が浸透してきているように、交通分野では様々な交通手段をパッケージ化して利用できる方法が欧州諸国を先頭に広がりつつあります。これは目的地までの乗り継ぎを提案してくれるという便利なアプリにとどまるものではなく,公共交通に留まらず自転車シェア,カーシェア,配車サービスなども組み合わせた選択肢に加わります。そうすることで、マイカーと同等かそれ以上に魅力的な交通手段を提供し,持続可能な社会を構築していこうという全く新しい価値観やライフスタイルを創出していく概念です。
実際に,フィンランドのヘルシンキでは,Whimという統合アプリの提供が始まっており,行政主導でヘルシンキ市内全ての公共交通機関である鉄道・路面電車・バスに加え,カーシェアリング・レンタカー・タクシーが一つのサービスとして統合され,アプリでルート検索,予約,決済が可能な仕組みを展開しています。導入当初は,MaaSの導入はカーシェアや配車サービスを中心とした自動車産業のためのもので,公共交通にとってはマイナスに働くのではないかとの懸念もありましたが,導入後のユーザーのマイカー利用率は半減し,導入前は50パーセントに満たなかった公共交通の利用率が74パーセントに増えています。
マイカーから公共交通に利用が移行すれば,バスの赤字路線解消や地下鉄の増便など利便性や快適性を高めることにもつながります。日本では2018年より政府の成長戦略として,自動運転と合わせてMaaSについて検討が始まり、モデル自治体での検証実験が始まっています。
MaaSは,それなりに公共交通が整備されているのにマイカー依存率の高い地域に向いています。国土交通省の調査によれば、京都市は鉄道やバスの利用率が増加してきているものの依然として自動車への依存度は高くMaaSの導入には大きな効果が期待できる都市です。
MaaSの導入には地下鉄とバスの乗継はもちろんのこと、自転車や自動車のシェアリングなど移動習慣を変えてもらう必要性があります。現状の市内周辺部から中心部へバス一本で移動できる交通は確かに便利ですが、赤字運営のため今後ダイヤの維持や路線確保が厳しくなることを踏まえると、交通習慣を変えることで移動の利便性を保つことは大変魅力的です。交通は都市の経済活動を支え、人々の日々の生活スタイルに直結するものです。だからこそ、人口減少により悪化する交通事業をただただ受け身に対処するのでなく、100年に一度と言われる交通の大改革に挑み京都市の交通を便利にする取り組みが重要です。
京都市ではフィンランドでMaaSアプリのWhimを展開するマースグローバル社と意見交換がなされ,各交通事業者が保有するデータを事業者の負担を軽減しながら収集し,活用するための制度づくりが進められています。複数の交通事業者が提携するには、料金体系を筆頭にいくつかのハードルがありますが、それを乗り越え新たな道筋を開くべく提言を続けてまいります。