京都市では花折断層帯の地震が冬に発生した場合、市内で16万5,000人の避難者が出ると想定しており、この想定数を前提に備蓄物資計画を立てるとともに、指定避難所においても充足率を満たすよう進められています。
しかし、今回、私が地域の自主防災会の方々ともに避難所指定されている小学校、小中一貫校など数カ所の現場を計測して回り検証したところ、実際は京都市公表の受入可能人数のわずか4割程度しか受け入れることができないという結果になりました。
この点を京都市に問題提起および提言を致しましたので、よろしければ下記よりご確認ください。
議会では時間的制約もありましたが、こちらではより詳細な調査結果をご報告します。
自身や周囲の避難行動、地域の防災活動などに是非ご参考にしていただけますと幸いです。
令和6年12月、国は自治体向けの避難所に関する取組指針・ガイドラインを改定し、生活空間の確保として一人当たり3.5㎡の居住スペースを明記しましたが、これまでは1人当たりのスペースの明示はなく、自治体の判断に委ねられてきました。そのため避難所の一人当たりのスペースは自治体間で2倍ほどの開きがありましたが、一般的には一人当たり2㎡とする自治体が多く、京都市も同じく一人当たり2㎡で計画の算出がなされてきました。
今回私が指摘した「実際の受入できる人数が計画の4割程度にとどまる」というのは、まさにこの単純な計算方法によって実態と大きな乖離を生んでしまっているものであり、議会で問題提起及び今後の提案を致しました。
それでは具体的にその原因を紹介します。
【要因1】通路スペースの未考慮
乖離が生じている最大の要因は通路スペースの未考慮です。
下図に示したのは体育館の現状の計画数に沿って避難者を当てはめた場合の縮尺図です。体育館のスペースはステージや倉庫、出入口も考慮されることなく避難者が並ぶ計算で、避難者が行き来できるスペースが全く考慮されていません。この状態では一定期間の生活を送るには無理が生じることは明らかです。
そこで、最低1mの通路を確保し、かつ高い段差のあるステージ、備品、倉庫は居住スペースから除外した場合でレイアウトしたところ、受入可能人数は55%減少する結果となりました。
通路1mの根拠は、「京都市避難所運営マニュアル 【別冊】感染症対策」で世帯の間隔は最低1m確保することとしているため、本来であれば車いすが通れる1.1mを基準としたいところですが、極力通路を設けたうえで多くの避難者を受け入れることを目的に1m想定としています。
今回の事例では跳び箱がありますが、各校で体育倉庫に入りきらない備品が体育館スペースに残っている場合は少なからずあることがわかりました。
次に普通教室を取り上げます。
京都市では体育館だけでは想定避難者を受け入れるキャパシティが到底足りないことから、校舎内の普通教室や特別教室においてもほとんどの教室を開放する計画となっております。
普通教室は開放されている教室の約3割にあたります。
京都市内で一般的な63㎡の普通教室で想定すると、京都市の計算では一人当たり2㎡で割り算しているため31.5人となり、下記の図のようになります。
教室部分は黄土色で、廊下部分は灰色で示しています。想定の前提条件として、机など大人1~2名で比較的容易に動かせる備品は廊下に出すこととし、それ以外の備品は教室に残すこととしています。机などの備品の置き場所においては、教室に残すことを想定している自治体もありますが、京都市では各避難所に判断を委ねています。教室に机を残すと避難できる人数が激減するため今回の想定では簡易な備品はすべて廊下に出す想定でレイアウトを組んでおります。
教壇やロッカーなどは、避難スペースを大きく圧迫していることがわかります。また、機械的な算出のため面積が奇数の場合は0.5人分も数に加えられており左下の避難者は半分の面積しかないにも関わらず計算されていることがわかります。
そこでさきほどの体育館と同様に、最低1mの通路を確保してレイアウトすると、受入可能人数は13名となり計画の59%減となります。
廊下スペースも実寸に沿った縮尺図であり、生徒机など動かせる備品を廊下に移動すると廊下スペースをかなり圧迫することとなります。余震の懸念もあることから机を2段に積んで収納するのか、居住スペースを圧迫しても教室内に一定の備品を残すか、といった難しい判断も災害時の避難所責任者に委ねられていることがわかります。レイアウトを具体的に検証することで見えてくる難しい判断や課題を計画の時点で解消しておくためにも、避難所運営の想定をよりきめ細やかに再検証する必要性があると考えます。
【要因2】大型・固定備品による制約
次に居住スペースを圧迫する要因として考慮しておくべきなのが備品です。
家庭科室や図書室などの特別教室は使用目的に合わせた多くの備品が備わっており、災害時の避難教室として開放されているものの居住空間として不向きな教室も少なくありません。
例として家庭科室の縮尺図を示します。
教室の中央部に固定机が複数設置されているほか、大型の洗い場(シンク)や物品収納用の食器台など、廊下への移動は困難な備品が多数あります。
そのため、京都市の教室面積に対して一人当たり2㎡のスペースを当てはめた機械的な計算の場合、避難者は固定備品などの上にもくまなく配置されることになり現実的ではありません。
そのため、出入り口へどこからでも通れる通路を考慮すると下記のような配置となります。
今回例に出した家庭科室は96㎡のため、京都市が計画算出に用いる1人あたり2㎡であれば48名となりますが、実際に備品と通路を考慮すると77%減の11名となります。
このように、体育館だけでなく校舎の普通教室や特別教室が開放されたことで避難所の受入れ人数は大幅に増えているものの、校舎内のスペースや普段教育機関として様々な活動をしていることからも備品が非常に多く、そのことを認識しておかなければいざ災害が発生した際に大きな混乱を巻き起こすリスクが潜んでいます。
【要因3】床面積の算出方法によるズレ
また、建物の床面積の算出方法も誤差が生じています。
本市は壁芯面積をもとに収容人数を算出しておりますが、実際には壁の内側の内法面積しか利用できるスペースはありません。一般的には面積で5~8%の差が生じるとされています。実際に計測したところ、教室では縦横幅各20~30㎝ほど狭く、この点も使用には計画とのズレが生じています。
床面積を計算する方法として建築基準法施行令第2条第1項第3号で壁芯面積が規定されており、設計図や建築確認申請などに用いられるなど、設計と施工の連携をスムーズにする有効な方法であることは事実です。避難所の収容人数を算出する場合は、建築確認申請や何らかの施工を行うのではなく、居住スペース等として実際に使える面積を割り出すことが目的であるため、壁芯を用いるメリットは無く誤差を生じさせる原因でしかありません。
避難所に指定されている小学校や中学校ではいずれも条件が似通っており、複数校調査を進めたところ、実際に運営がされている学校の受入可能人数は公表数字の4割程度しか受け入れが困難であることがわかりました。
また、今回の計算には組み込んでおりませんが、実際に避難所運営をする際には居住スペースを提供するだけでなく、食事の提供や負傷者および体調不良者への対応などに対応できる機能も備える必要性があります。このことは、「京都市 避難所運営マニュアル」において、体育館以外で個室を確保した方が良いスペースとして下記の記載があります。
京都市 避難所運営マニュアル p14より抜粋
このように、京都市として居住スペースだけでなく避難所機能を成り立たせるためのスペースとして「避難所運営協議会本部」や「物資倉庫」など計8項目が明記されています。避難所での感染症蔓延を避け、物資も円滑に行きわたる避難所運営のためには、それぞれ個室を設けられることが望ましいことは言うまでもありません。仮に個室でなくとも、一定スペースを確保できなければそもそも避難所運営が成り立ちません。
そのため、通路確保や備品考慮だけで当初計画の6割が受入困難となることに加え、避難所機能を考慮すると受入人数はさらに減少することになります。
例えば、固定備品への考慮として家庭科室を例に挙げましたが、そもそも災害時は家庭科室を炊事場として活用する想定をしている場合も少なくありません。小学校の調理室は鍋などあらゆる調理道具が大型で特殊であるため京都市では避難所利用から除外されています。また、保健室は救護室としての機能に活用されることも充分に想定されます。そのため、杓子定規に居住スペースとしてカウントする前に予め避難所機能を担うためのスペースへの考慮が不可欠です。
家庭科室や保健室を居住スペースには加えないことや、普通教室は各校面積が近いため、例えば3~4室を上記の“体育館以外で個室を確保した方が良いスペース”の活用として居住スペースの算出想定から予め除いておくことも有効と考えます。
国が防災対策強化に向けて新たにスフィア基準を提示!
そうなれば受入可能人数はどうなる!?
続きは近日中公開予定!